メガンテ
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 不思議なことに、未央からの催促は無かった。自信があるからなのか、じっくり読んで欲しいからか。それとも、私が読めないことを知っているのか。今の私の気持ちを未央が予想していたら……。

その考えに辿り着いた時、私は恐怖で身震いした。未央が怖かった。今まで自分が信じていた世界を疑うことが、怖かった。


「くそ、負けるもんか」


 負けるもんかと啖呵を切ったものの、私の日常には全く余裕がなかった。毎日、毎日、同僚の好奇の視線に耐え、まるでそのことを全く気にしてないように振る舞う。演技、演技、演技、そんな毎日にとても疲れてしまった。


「仕事、辞めたくて……」


そんな弱音を吐けるのは、私には一人しかいなかった。マガジンホームの、根本だ。急な私の連絡を、根本は二つ返事で承諾した。


 根本に連れられて入った西麻布のジャズバーは、バブル真っ直中にお洒落と言われている人達が集まった場所らしい。根本が遠くを見つめながら、懐かしそうに語る。


「あの時は、楽しかったなー」


 就職だってさ、企業が頭下げて、「どうぞ会社に入ってください」って接待してくる時代でさー、就職解禁になる八月一日には、学生達を海外旅行に連れて行ってさー。と、独り言のように、続ける。


「私達の世代は、物心ついた時から厳しい時代って言われて来たら、なんだか想像できないです。浮かれたバブル時代とか」


「うんうん、浮かれてたなー」


「こんな時代だから、なかなか転職もできないんです」








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