メガンテ
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16) みずから苦しむかもしくは他人を苦しませるか
    そのいずれかなしに恋愛というものは存在しない




   
                             アンリ・ド・レニエ



 あの夜、私は成瀬のベッドの上に手紙を置いて、直ぐに部屋を後にした。朝方返って来た成瀬が、きっと私の携帯を鳴らすだろう。電源を切らずにじっと待ったのは、成瀬の言葉が欲しかったから。違うよ。と、いつものように甘く優しく否定してくれたら、また彼の元に戻っただろう。

 しかし、成瀬からの電話はなかった。残念で、だから余計に未練を断ち切れず。けれど、心の隅ではほっとしていた。恋愛の終わりというのはこんなに呆気なく、突然なんだと初めて知った。


 その日の朝、何か大きなトラブルを予知したような、未央からのメールが来ていた。


「美幸、最近、どう?」


「未央こそ、どう?」


「今度会わない?相談したいことがあるんだ。大事なこと」


「分かった。都合つけて連絡するね」


そう返事をしたが、本当に都合をつけるつもりはなかった。女の友情は、彼氏ができて微妙になる。私と未央もそうだった。


 朝食の席に着くと、父が食べ終わった所だった。新聞を読みながら、お茶を啜っている。


「お前、付き合っている人がいるのか?」


顔色一つ変えない父の尋問は、きっと母が唆したことだ。


「まぁ、ね」






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