箱女−愉しく覗き、決して開けるべからず−
[5、箱と箱と箱と箱と箱](12/12)

「病院に行かなくてもいいの?」


「貴方が治してよ」


目の前にぐい、と傷口を見せつけられる。化膿した、甘ったるい匂いがする。


「どうやって」


「回復の呪文、習得してないの?レベル上がったんでしょ。取り敢えず、傘をゲットしたから」


「してないよ。それに、なんで君まで俺を勇者って呼ぶんだよ」


「何よ、今更。それをいつも夢見てたじゃない。異世界にトリップして勇者になって、どんどんレベルを上げて強くなって、可愛い女の子にもてまくって、やり捨てしたいって。それ、シンの願望でしょ?願望が現実になって、おめでとう!」


ぱちぱち、目の前で馬鹿にしたように拍手をする。


シン……?なんでジュリアまで、俺のことをそう呼ぶのだろう。しかし口を開きかけると、ジュリアにガツンと止められる。何かが、おかしい。混乱した頭の芯がむず痒くなって、叫び出したくなる。眩暈と、吐き気。世界がぐにゃりと崩れ落ち、意識が飛びそうになる。呼吸ができない。俺は金魚のように口をぱくぱくさせながら、コンビニを飛び出した。


「呪文覚えて、私の腕を治してよー」


そんな俺の背中に、ジュリアの柔らかい声が投げ付けられる。


「治せるか」


食いしばった歯の間から洩れた声が、ジュリアに届いたかは定かではなかった。





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