箱女−愉しく覗き、決して開けるべからず−
[1、箱と箱](2/8)

 ついでに彼女とは別れた。親が金持で、幼稚園から大学まで何の苦労もせずエスカレーター。就職だって今どき(本当に今どきだよ)コネで入ったような莉奈なんかとは、そもそも話が合わなかった。


「あんたぁはぁ、顔だけはぁ、まぁまぁ」
と、いつも見下したような態度だった。何故あんな女を好きだったのか、今となっては理解に苦しむ。


で、以来、引き籠もっている。




 深夜、冷蔵庫を開けたらミルクが切れていた。ないと思ったら、無性にコーヒーが飲みたくなる。これからネットで注文すると、明日の昼までミルクは来ない。


 しょうがない。マンション一階のコンビニでも行くか。エレベーターで隣人に会うのが嫌なので、内階段を下りる。八階から一階。普段、背中を丸めてパソコン相手にかちゃかちゃやっているだけの俺には、結構な運動になる。


 パジャマ姿の上にトレンチコート、そしてサンダルを突っかけた俺に、若い女性店員は「こんばんは。お久しぶりです」と、微笑む。こんな風に気軽に男に声を掛けられる女って、何だろう。怖い。


「――ど、も」


袋を受け取って、微妙な笑顔を返す。


 さて、内階段を八階まで。そうとう疲れる。ずっ、ずっ、と、足音にまで覇気がない。冷気が籠もった内階段に響く、自分の足音に情けなくなる。


 荒い息を吐きながら自分の部屋に辿り着くと、大きな段ボールが目に入った。両手でやっと持ち上げられる程の大きさで、通路を塞ぐ形で置かれていた。勿論、コンビニに行く前はない。


「なんで、こんなとこに」


両側の隣人のドアを眺める。引っ越し中なんだろうか。こんな深夜に?夜逃げか?


 しかし段ボールに貼り付けてある送り状には、ちゃんと「須礼真治」と、俺宛になっている。宛先人は「威 明石」。


「い、みょうせきって誰?中国人?」




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