メガンテ
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冷えて固くなったトーストを囓りながら、もごもごと返答した。でもどう返そうと、人を見るのが職業の父にはお見通しだろうが。


「そう、か。今度連れて来なさい」


母が何か反論しかけたが、父はそれに被せるように少し大きな声を出す。


「兎に角、お前を大事にしてくれる人とお付き合いをするんだぞ」


「はい」


適当に返事すると、怖い顔で睨む母の視線とぶつかった。あなたに間違いを起こして欲しくない。母は何度もそう言うが、本当は、娘が女になっていくのを見たくないように感じる。女から遠ざかる、母の嫉妬。


 月末、銀行は忙しい。勿論忙しいのは、主に窓口だが。銀行に来た次いでに、住宅ローンの相談をしていこうか?今他の銀行で借りてるけど、ここに借り替えたらどのくらい支払いが軽減されるか?繰り上げ返済して返済期間を短縮したらどうか?取り留めのない話をする客が、二階の融資相談に上がって来る。


「ちょっと、下に行って来る」


内線を掴んだ上席調査役が、緊張した面持ちで言った。私は返済期間延長を申し出た年配客の相手をしており、足早に階段を下りていくその禿頭を眺め
た。


「あの、神無月さん代わります」


脇腹を後輩に撫でられて振り返ると、全ての行員が私を見ていた。その視線の意味を分かりかねて戸惑っていると、「神無月さん、支店長がお呼びなんです」 と続ける。








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