メガンテ
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「知らなかったんですか?」


「つまり、娼婦の女版?その、だからつまり、アレをしてお金を貰ってるの?」


「実際にしてるかどうかは知らないよ。そもそも、売春は犯罪じゃない?」


HPを見つめる私をそのままにして、洋介はまた例の作業に戻った。


「兄貴のこと、嫌いになった?そもそも、そんなに好きじゃなかった?」


初めてバーで一緒になった時は、兄を尊敬しているように見えた洋介だった。しかし今夜は、言葉の端々に兄を陥れようとする明らかな悪意が滲んでいた。


私は洋介の隣に座り込んで、必死に携帯に打ち込んでいるストーリーを横から読み始めた。前から不思議に思っていた。HBの書く作品の主人公は、主婦ばっかりだった。中年の域にさしかかろうとした女の、平凡な日常生活の中にぽつんと起こる小さな事件。目の前にいるこの愚鈍な少年が、何故あんな黄昏れた話を書くのだろうか。


 さっきまで成瀬が微笑んでいたパソコンに、熱帯魚が泳ぎ回っているのを見ながら考えた。もしかしたらあの作品は、成瀬が書いている物なのではないか?成瀬と、あの中年女の姿が思い出された。ならば、洋介のこの複雑な感情が理解できる。


「これ、お兄さんが書いてるんだってね」


「え?兄貴、そんなことまで美幸さんに言ったの?言わないって約束したのに!」


これは罠だ。さっき、洋介が私に投げつけた悪意を、返してやった。


「中には僕が書いた物もあったよ。けど、兄貴に読ませると、ダメだって否定される。兄貴はきっと天才なんだ。格好良くて、女にもてて、勉強もできた」


頭がおかしいことを除けば、いや、それがあるから兄貴は完璧なんだ。と、洋介は締めくくった。







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