メガンテ
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「あ、そうだ実は神無月さん!俺、転職するかも知れないんですよ。上司が、ある出版社に転職する予定で。俺も一緒に、引き抜かれるんです!」
私は資料をチェックする手を、ぴたと止めた。


「あの、松山様。そう言ったお話しをお窺いした以上、融資は難しいと思ってください」


「え?どうして?俺、ヘッドハンティングされるんですよ!年収も増えるし」


余計なことを口走った後悔で、松山は眼鏡が曇るほど上気した顔で唾を飛ばした。


「当行でお借り入れをされる条件として、安定した収入がおありになることが条件なんです。ですから、勤続年数をお聞きしてるんです。転職予定だということは、幾ら収入が増えても、安定してるとは言えないんですね」


無口な男って言うのは、失敗も少ない。お喋りな男ほど、こうした失敗を起こすのだ。厳密にはステップアップ転職の場合は、勤続年数を重要視しない場合もある。けれど私は、松山を少し怖がらせたかった。他人の感情をコントロールするのに必要なのは、世の中に二つ。一つは「お金」、もう一つは「恐怖」だ。


「銀行に融資を断わられるかも」という恐怖心で、私は松山の感情をコントロールできる。


「ですが、松山様。融資が実行された後、私達は松山様が転職した事実をどうやって知るんですか?」


「え?俺からでしょ?」


「そうです。ということは、つまり……?」


「はぁ?」


察しの悪い男だ。一から十まで説明しないと分からないのだろうか?


「つまり。松山様が仰らないと、当行は知る由もございません」

「知らせる義務はないと?」


私は思いっきり作った笑顔を彼に向けた。












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